前回では、式の値の問題は本質的に連立方程式であるということを学びました。
今回は、式の値に特徴的な式変形、つまり与えられた値を式に代入する際に用いるテクニックを2つほど見ていきます。
今回のポイントを押さえれば、大抵の式の値の問題は解けるようになるはずです!頑張っていきましょう。
- 平方根を消したければ、片側に寄せて二乗せよ!
- 対称式は、基本対称式で表そう!
次数下げのテクニック
次数下げとは?
次数下げとは、文字通り「与えられた式の次数を下げる」テクニックのことです。
たとえば、x^3+x^2+x+1という式があったとします。この式の次数は3ですね。
このとき、もしx^3=x^2+1という関係が分かっていたとすれば?そうすると元の式のx^3のところにこの関係を代入してあげれば:
\begin{aligned} x^3+x^2+x+1&=(x^2+1)+x^2+x+1\\ &=2x^2+x+2 \end{aligned}
となり、式の次数を3から2に変えることができましたね。
基本的に、式は次数が低いほど簡単です。
二次方程式より一次方程式の方が簡単だったり、因数分解も次数が低い方がシンプルに解けたり。いろんな状況で、もっと次数が低ければ…と思うことがあります。その時に使えるのがこの次数下げの考え方というわけです。
そして、次にあげるような式の値の問題は、まさに次数下げの考え方が活きる典型例というわけなのです。
平方根を含む1文字を代入するときは、次数下げ
式の値の問題でよくあるパターンの1つが:
x=1+\sqrt{3}のとき、x^2+3x+1の値を求めよ。
のような、
- 代入したいものが1文字で、かつ平方根を含んでいる。
- 代入される式の次数が2次以上。
の問題です。もちろん正直に代入して計算を頑張れば答えは出ますが、1+\sqrt{3}のような数を二乗とか三乗するのって、大変だし計算ミスしやすいですよね。
つまり「平方根が無くて、代入される側も次数が低ければなぁ…」ってことですね。
じゃあ、そうなるように式変形しようというのが今回のテーマです。
それでは、上の例題を解いていきます。
まず第一に、平方根を無くすところから始めます。
平方根を無くす時によくやる方法は、平方根だけを片側の辺に寄せて二乗するという方法です。
つまり今回では:
\begin{aligned} &x=1+\sqrt{3}を、x-1=\sqrt{3}と書き換える。\\ &両辺を二乗して、(x-1)^2=3となる。\\ &展開して整理すると、x^2=2x+2 \end{aligned}
とするわけです。大事なのは、「平方根って二乗すれば消えるよねー」という気持ちですね。
すると、次数下げで説明したのと同じシチュエーションですから、次数下げもできます:
\begin{aligned} x^2+3x+1&=(2x+2)+3x+1\\ &=5x+3 \end{aligned}
ここまでくればもう暗算でも答えが出ますね。
1+\sqrt{3}をxに代入して、8+5\sqrt{3}が答えです。
次数下げを行うことで、かなり計算が楽になりミスも減ります。いわゆる計算の工夫ですね。
ここをポイントにしておきましょう。
- 平方根を消したければ、片側に寄せて二乗せよ!
あれ、次数下げは?と思ったかもしれませんが、今回は平方根を消した結果次数下げもできる、と言うパターンなのでこちらをポイントとしています。
もちろん次数下げも覚えていなければ使えませんし、重要であることに違いは無いので考え方だけしっかり覚えておいてくださいね。
対称式の利用
対称式とは?
多項式であって、文字同士を入れ替えても式の意味が変わらないものを対称式と言います。主に中学校で出てくる対称式は2文字から成るものなので、ここでも2文字のものを扱います。
- x+yのxとyを入れ替えるとy+xだが、x+y=y+xなので意味は変わっていない。
- x^2+y^2+1のxとyを入れ替えるとy^2+x^2+1だが、x^2+y^2+1=y^2+x^2+1なので意味は変わっていない。
- \frac{ab^2+ba^2+1}{ab}のaとbを入れ替えると\frac{ba^2+ab^2+1}{ba}だが、\frac{ab^2+ba^2+1}{ab}=\frac{ba^2+ab^2+1}{ba}なので意味は変わっていない。
以上のようなもののことです。非常に対称性が良い(2文字の役割が対等という意味で)ので、対称式といいます。
対称式の性質
対称式が、文字としてxとyと言う2つの文字だけを含んでいたとしましょう。
するとこのような対称式は、基本対称式と呼ばれるx+yとxyという2つのパーツだけを使って表すことができます。どういうことかというと、
- x+yは基本対称式そのものである。
- x^2+y^2+1=(x+y)^2-2xy+1と変形できる。
- \frac{ab^2+ba^2+1}{ab}=\frac{ab(a+b)+1}{ab}と表せる。
どの式も、文字は全て基本対称式のかたまりになっていることを理解してください。
xだけとかx^2yみたいな変な形は残っていませんね。
前回、「a+b+cをひとかたまりと見て~」という話題をしたのを覚えていますか?
そのとき、「無理矢理かたまりを作りましょう、ただ毎回ちょうどぴったりかたまりを作れるわけではありません」という話もしました。
今回の話題は、まさにそれと似ています。かたまりを作るところは同じですが、前回と違うのは「対称式だったら、絶対に基本対称式という2つのかたまりだけで元の式を表せる」ということなんです。
対称式を利用して式の値を得る
では実際に式の値の問題で、対称式という考え方の利用方法を学びましょう。
x=3+\sqrt{5}, y=3-\sqrt{5}のとき、x^2+y^2の値を求めよ。
という問題があったとします。
まず求めたい式が対称式であることを確認しましょう。
x^2+y^2はxとyを入れ替えても…同じですね。対称式です。
対称式なので基本対称式で表せます。この変形は頻出なので覚えてほしいのですが:
x^2+y^2=(x+y)^2-2xy
と変形することで、基本対称式だけの形にできます。
ではこの式に基本対称式の値を代入しましょう。基本対称式の値は:
x+y=6, xy=4
です。今回、xとyの値は足したりかけたりすると割ときれいな値になります。
対称式の問題では基本対称式を使わせたいので、代入する値同士は足したりかけ合わせたりすると簡単になるように設定されているというのもポイントですね。
それではこれを代入して、答えは:
(x+y)^2-2xy=6^2-2\times4=28
となります。
今回くらいならそのまま代入してもいけそうですが、もっと複雑になるとこの考え方を使わなければ厳しくなってきます。ポイントは、
対称式は、基本対称式で表そう!
対称式の変形は慣れないと難しいものがありますし、x-yを用いるパターンというものもあります(交代式でググると色々出てくるでしょう)。
色々な問題に取り組んでみて、少なくとも今回紹介したものはマスターできるよう頑張ってください!
今回の宿題
- 中学3年の単元「平方根」などから、式の値の問題15問以上
を、今回の説明を意識して解いてみてください。
学校で配られた問題集でも、ネット上の問題でも大丈夫です。